猿さえ飛び越えた秘境の峡谷を訪ねる旅
富山県東部、黒部川が深く大地を刻んで生まれた黒部峡谷。
その奥深くに、「猿飛峡(さるとびきょう)」と呼ばれる場所があります。
名前の由来は、この場所が黒部川本流でも特に川幅の狭い場所で、**「昔、猿が飛び越えた」**と伝えられていること。
深い谷底を流れる黒部川と切り立った岩壁。
人間でさえ簡単には近づけないような険しい自然の中を、猿が身軽に飛び越えていった――。
そんな光景を想像すると、「猿飛」という名前そのものが、この峡谷に残された昔の人々の自然観察の記憶のように感じられます。
伝説名
「猿飛峡」――猿が飛び越えた峡谷の伝承
猿飛峡は、黒部川本流の中でも特に川幅が狭い場所です。
富山県の公式観光情報では、**「昔猿が飛び越えたことから命名された」**と紹介されています。
つまり、猿飛峡の伝説は、英雄や妖怪が登場する物語というよりも、
「この狭い谷なら、猿ならば飛び越えられる」
という、峡谷の険しさと自然の姿から生まれた地名伝承といえます。
現在の私たちが見ても、深く切れ込んだ谷と急流を前にすると、「なぜここを猿飛と呼んだのか」という名前の意味を想像することができます。
伝説のあらすじ
昔の黒部峡谷には、現在のようなトロッコ電車も遊歩道もありませんでした。
深い谷、険しい岩壁、激しく流れる黒部川。
人が容易に入り込めない大自然が広がっていたことでしょう。
その中でも黒部川の川幅が特に狭くなっている場所を見て、人々は、
「ここなら猿が飛び越えてしまう」
と考えた。
それが「猿飛」という名前につながったと伝えられています。
これは、あくまで地域に伝わる地名の由来として紹介されているもので、猿が実際に飛び越えたという史実が確認されているわけではありません。
しかし、伝説の面白さはそこにあります。
「猿飛」という名前を残すほど、昔の人々がこの峡谷を見て「ここは猿なら飛べるほど狭い」と感じた。
その感覚を、何世代にもわたって地名として受け継いできたのです。
伝説の場所・現在の観光地
黒部峡谷・猿飛峡
猿飛峡は、富山県黒部市の黒部峡谷にあります。
黒部峡谷は、立山連峰と後立山連峰の間を黒部川が北へ流れることで形成された、日本有数の急峻なV字谷です。
猿飛峡周辺は、奥鐘山とともに、国の特別名勝・特別天然記念物に重複指定されている景勝地として知られています。
黒部峡谷の玄関口となる宇奈月からは、黒部峡谷鉄道のトロッコ電車に乗って峡谷へ向かうのが代表的な観光方法です。
トロッコ電車は、宇奈月駅から欅平駅まで約20kmを走る観光列車で、もともとは黒部川の電源開発にともなう資材や作業員の輸送を目的として生まれました。
現在の猿飛峡は要注意
ここは旅行前に必ず確認したいポイントです。
2026年8月現在、猿飛遊歩道は通行できません。
黒部市の2026年5月18日時点の案内でも、能登半島地震の影響による復旧工事などのため、猿飛遊歩道は通行不可とされています。
また、富山県の観光情報では、落石のため猿飛峡までは通行できず、途中の河原園地まで通行可能と案内されています。
したがって、「猿飛峡を実際に歩いて訪れる旅」は、現在の状況ではできません。
今後、遊歩道の復旧状況が変わる可能性があるため、訪問直前に最新情報を確認するのがおすすめです。
アクセス
トロッコ電車を利用する場合
まずは富山県黒部市の宇奈月温泉へ向かいます。
黒部峡谷鉄道の宇奈月駅は、富山地方鉄道の宇奈月温泉駅から徒歩約5分。
北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅からは、富山地方鉄道に乗り換えて宇奈月温泉駅へ向かう方法があります。

ただし、2026年8月現在は宇奈月駅~猫又駅間の折り返し運行となっており、猿飛峡のある欅平方面へは通常の観光客向けトロッコ電車では行けません。
一方、黒部峡谷鉄道は2026年10月1日から宇奈月駅~欅平駅間の全線運行再開を予定していると発表されています。
※ただし、欅平駅周辺では復旧工事に伴う立入制限が予定されているため、
「全線運行再開=猿飛峡遊歩道が全面的に利用できる」という意味ではありません。
車の場合
北陸自動車道・黒部ICから宇奈月温泉方面へ向かうルートが便利です。
黒部峡谷鉄道の宇奈月駅周辺に駐車して、トロッコ電車を利用する観光スタイルが基本となります。
周辺の観光スポット
宇奈月温泉
黒部峡谷観光の拠点となる温泉街。
黒薙温泉を源泉とする温泉で、大正12年(1923年)に開湯しました。
峡谷を歩いた後に温泉へ入る、という旅を楽しめるのも黒部ならではです。
黒部峡谷トロッコ電車
黒部峡谷観光の主役ともいえる乗り物。
深いV字谷に沿って、トンネルや橋をいくつも通りながら進みます。
車窓から見る黒部川と断崖絶壁は、まさに「秘境」という言葉が似合う景色です。
山彦橋
宇奈月周辺で黒部峡谷を感じられる代表的なスポット。
トロッコ電車と峡谷を一緒に眺められる場所としても人気があります。
宇奈月ダム
黒部川の水を利用した電源開発の歴史を感じられる場所。
黒部峡谷は「秘境」というイメージだけでなく、日本の電源開発を支えてきた場所でもあります。
おすすめの宿泊施設
猿飛峡を訪ねる旅なら、宿泊は宇奈月温泉がおすすめです。
宇奈月温泉 延楽
宇奈月温泉の老舗旅館。
富山湾の海の幸などを使った料理を楽しみながら、峡谷の旅をゆっくり振り返る宿としておすすめです。
黒部・宇奈月温泉 やまのは
宇奈月温泉で温泉と峡谷観光を組み合わせたい人に向いた宿。
黒部峡谷観光の拠点として、旅程を組みやすいのも魅力です。
おすすめの食事処・ご当地グルメ
宇奈月温泉では、山の幸だけでなく、富山湾の海の幸も味わえます。
有磯きときと庵
宇奈月温泉街で富山らしい食事を楽しみたいときの候補。
「きときと」は富山の方言で「新鮮」を意味し、富山湾の海の幸を味わう旅と相性のよい店です。
河鹿
宇奈月温泉街にある食事処。
観光局の公式サイトでも宇奈月温泉の食事処として紹介されています。
富山の名物
旅の食事では、
- ます寿し
- 白えび
- ホタルイカ
- 富山湾の魚介
- 富山の地酒
などを狙いたいところです。
特に富山土産の定番として知られるのが「ます寿し」。富山市公式観光サイトでも代表的な富山土産として紹介されています。
おすすめのお土産
宇奈月温泉街には、旅の最後に立ち寄りたいお土産店があります。
宇奈月温泉旅館協同組合では、「おもかげ」「湯の花ごろも」「とうふプリン」、宇奈月の名水を使った「宇奈月ビール」などを紹介しています。
おすすめ
① とうふプリン
黒部の名水と豆腐文化を感じられる、宇奈月らしい甘味。
② 宇奈月ビール
黒部の水を旅の記憶として持ち帰るのも面白い選択です。
③ 富山のます寿し
帰宅してからも富山の旅を思い出せる定番土産。
④ 宇奈月の銘菓
温泉街には老舗菓子店もあり、旅館で味わったお茶と一緒に楽しむのもおすすめです。
モデルコース
「猿飛峡の伝承を感じる1泊2日コース」
1日目
北陸新幹線
↓
黒部宇奈月温泉駅
↓
宇奈月温泉
↓
黒部峡谷鉄道・宇奈月駅
↓
トロッコ電車で黒部峡谷を体感
↓
宇奈月温泉街散策
↓
温泉旅館に宿泊
※現在はトロッコ電車の運行区間に制限があるため、2026年8月時点では猫又駅までの運行を前提にします。
2日目
宇奈月温泉
↓
山彦橋周辺を散策
↓
宇奈月ダム方面
↓
温泉街で昼食
↓
お土産購入
↓
黒部宇奈月温泉駅
全線復旧後なら(要確認)
欅平までの運行と猿飛峡周辺の立入規制が解除された場合は、
宇奈月 → トロッコ電車 → 欅平 → 猿飛峡 → 奥鐘山周辺 → 欅平 → 宇奈月
という、より本格的な「伝説の地を歩く旅」に発展させられます。
ただし、現時点では遊歩道の状況が異なるため、復旧後の最新情報を確認してから計画してください。
伝説を感じる旅の締め
猿飛峡の伝承は、とても小さな物語です。
「昔、猿が飛び越えたほど狭かった。」
それだけです。
けれども、その短い言葉には、黒部峡谷を見た昔の人々の驚きが込められているように感じられます。

深い谷。
切り立った岩壁。
谷底を流れる黒部川。
そして、人間には容易に越えられない場所を軽々と移動する猿。
昔の人々は、そんな自然の姿を見て「猿飛」と名付けました。
現代ではトロッコ電車に乗れば、私たちは黒部峡谷の奥へ向かうことができます。
しかし、猿飛峡という名前が生まれた時代には、ここはもっと遠く、もっと険しい場所だったはずです。
だからこそ、猿飛峡を旅するときには、単なる絶景スポットとして見るのではなく、
「この峡谷を見た昔の人は、どんな景色を見て、何を感じたのだろう」
と想像してみたい。
猿が飛び越えたという小さな伝承。
その背景にある、巨大な黒部峡谷。
そして現在も続く、自然と人間との長い付き合い。
「猿飛」という名前を覚えて帰るだけでも、この秘境の旅は少し違って見えてくるでしょう。
※2026年8月現在の重要な注意
2026年8月現在、黒部峡谷鉄道は宇奈月~猫又間の運行となっており、猿飛峡のある欅平方面へ通常の観光客が訪れることはできません。また猿飛遊歩道も通行不可です。
黒部峡谷鉄道は2026年10月1日から全線運行再開を予定していますが、欅平周辺には引き続き立入制限が予定されています。旅行前には必ず最新の運行・通行情報を確認してください。
