― 宮崎、大分、鹿児島の風景と心が触れ合う旅 ―
誰かと訪れる旅もいいけれど、一人だからこそ見える風景がある。
ひとりで歩くからこそ感じる街の音、空の広さ、心の揺らぎ。
そんな想いを胸に、南九州の街をめぐる旅へ出かけてみたい。
今回は、宮崎、大分、鹿児島の三県を一人旅の目線で歩きながら、その土地ならではの観光施設や体験、宿泊施設、乗り物とともに紹介していく。

宮崎 ― 時間が止まるような風景に出会う
宮崎と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、神話の地・高千穂。絶壁を縫うように流れる高千穂峡の風景は、まるで太古の記憶を呼び起こすような神秘に満ちている。遊歩道を歩きながら、静かに耳を澄ませば、川のせせらぎと風が語りかけるようだ。
ひとり旅なら、ボートに乗って峡谷の底から眺めるという体験もおすすめ。水面に映る緑の揺らぎと、上から差し込む光が重なって、思わず時を忘れてしまう。
宿泊は、日向市の海辺にある小さなゲストハウス「うみべの宿」へ。オーナーとの会話を楽しみながら、地元の魚と野菜を味わう。夜は潮騒がBGM代わりになるのが心地よい。
移動には、JR日豊本線が便利。車窓から見える海岸線が旅情をぐっと高めてくれる。

大分 ― 温泉だけじゃない、発見の街
大分といえば、言わずと知れた温泉県。別府の湯けむり漂う風景は、どこか懐かしさを感じさせる。それでも、ひとり旅で訪れるなら、少し足を伸ばして由布院へ。静かな街並みの中に、美術館やカフェが点在し、散歩するだけで感性が研ぎ澄まされていくよう。
とくに「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」は現代アートを通じて“今ここにいる”感覚を呼び起こしてくれる体験型施設。作品を眺めていると、自分の中の記憶とゆっくり対話できる。
宿は由布岳を望む一棟貸しの宿「風色の家」が人気。朝、霧に包まれた庭に出て深呼吸する時間は、まさにご褒美。
移動には、「ゆふいんの森号」という特急列車がおすすめ。木目調の内装と広々した窓が、贅沢なひとときを演出してくれる。

鹿児島 ― 火と水が踊る、南の果ての物語
鹿児島に足を踏み入れると、まず薩摩の風が肌を撫でるように感じられる。
桜島を望む錦江湾の景色は圧倒的で、一人で眺めていても心に語りかけてくる強さがある。
桜島フェリーに乗って対岸へ渡る体験は、ちょっとした非日常。島に降り立つと、火山の息づかいを肌で感じることができる「湯之平展望所」へ。眼下に広がる灰色と緑のコントラストが、地球そのものの営みを教えてくれる。
宿泊は、指宿の砂むし温泉で知られる「休暇村指宿」がおすすめ。体を砂の中に預けるという体験は、一人旅ならではの“自分への癒し”として心に深く残る。
移動は、鹿児島市内を走る路面電車が楽しい。揺られながら、地元の人たちの会話や表情にふと触れる瞬間がある。そうした何気ないひとときが、旅の記憶になる。
一人旅のちいさな贅沢
風景に身を任せる。知らない街をさまよう。地元の人と交わす一言が旅の宝物になる。
一人で訪れるからこそ、街との距離が縮まり、心の輪郭がはっきりしてくる。
宮崎の神話、大分の静寂、鹿児島の力強さ。それぞれが異なる物語を紡いでいて、
だけど共通しているのは「誰かを待っているような街のぬくもり」。
もし忙しさに追われて、自分自身を見失いそうなときがあったら、南九州のどこかに、そっと心を置きに行く。
そんな旅があってもいいと思う。