はじめに:春の風が、またあの町を思い出させた
桜が咲き始める頃、ふと読み返した詩集のページに、あの猫の毛が1本挟まっていた。
潮の香りと紙の匂いが混ざった、あの町の記憶がふわりとよみがえる。
今回は、春の海辺で“しお”と再会する妄想旅へ。
【1日目】
午後:春の陽射しと、再会の足音
駅を出ると、前より少し暖かい風。 灯台書房の前には、変わらず“しお”がいて、こちらを見上げて「にゃあ」と一声。
店主は「春になると、あの子も少し甘えん坊になるんですよ」と笑う。
夕方:詩と珈琲と、春の余白
古本屋の奥に、小さな喫茶スペースができていた。
店主が淹れてくれたブレンドと、詩人・茨木のり子の詩集。
詩集の中に「自分の感受性くらい、自分で守れ」と書かれたページに、しおが寄ってきてそっと前足をのせる。
宿:春の海を見下ろす部屋
今夜の宿は、前回と同じ「潮見荘」。 部屋の窓からは、桜と海が同時に見える。
夕食には、春野菜の天ぷらと、地元の鯛の塩焼きのごちそうを頂く。
夜は、波音と猫の夢を聞きながら、静かに眠りにつく。
【2日目】
朝:猫と桜と、はじまりの気配
朝の散歩道、海沿いの塩並木に“しお”が先回りして待っていた。
ベンチに座ると、しおは膝に乗ってきて、しばらく動かない。 「また来ます」としおに言うと、しおは目を細めて、まるでわかっているようだった。
おわりに:旅は、記憶の中で続いていく
この町には、変わらないものと、少しずつ変わっていくものがある。
猫と本と、春の風。 また季節が巡ったら、きっとこの町に戻ってくるだろう。
しおはそのときも、あの古本屋の前で、静かに待っていてくれる気がする。